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第33回 身を焼かれるほどの苦しみの向こうに 日刊アマ全国大会

次はさいたまゴルフクラブ所属、井上以知子選手―――。

スタートホールのマイクから響くコールが、北陸の秋の空に静かに飲み込まれていった。あいにくの雨。そぼ降る雨。この瞬間がたまらなく好きだと思った。名前をコールされ、ティーグランドに上がり、ティーを刺す。緊張はしている。震えるほどではない。だが期待もしている。

フェアウェイに狙いを定め、ついにここまで来たなと思った。ほんの少し口元が上がった。競技を始めて3年目。まさかここまで来られるとは想像もしていなかった。

日刊アマゴルフの全日本レディースゴルフ選手権。地区予選、関東決勝大会を勝ち進み、いよいよ全国大会まで来たのである。

会場になったのは石川県にある片山津ゴルフ倶楽部・白山コース。小松空港から車で10分と便利なロケーションで、近くには温泉郷も控えている。飛行機代や宿泊費などを考えると躊躇いもあったが、全国大会に出られるチャンスはそうたびたび巡って来るわけでもないだろう。意を決して、大枚をはたいて参加を決めたのだった。

各地の決勝を勝ち上がって来た人たちの他に、全国大会にはシード選手やジュニア選手が加わり、出場者は総勢70名となった。その3分の1はジュニアだろうか。いや、もっといるかもしれない。付き添いの親たちがドライビングレンジやパター練習場を取り囲んでいる様を見ると、この大会がお遊びのものではないのがよくわかった。なにせ、優勝者には大王製紙エリエールレディスの本戦出場権が与えられるのである。プロを目指している子が真剣に戦う場なのである。

そんな大会で、もちろん勝とうとは思ってもいない。自分のベストを尽くし、この試合とこのコースを楽しもう。そう思っていた。

スタートホールのティーショットは快心の当たりで、フェアウェイの真ん中を目指して、実によく飛んだ。気持ちが良かった。二打目はトップしてゴロになったが、まあ気にしない。そのうち、調子も上がってくるだろう。

そのうち、そのうち、と言い聞かせるようにプレーしたが、どういうわけかショットが全く当たらずトップだのゴロばかり。グリーン回りはがっちりとバンカーで守られている白山コースでは、そんなショットではとうてい太刀打ち出来ず、毎ホールのようにバンカーにつかまった。

冷や汗を流しながら、終わってみれば105というびっくりするような結果になった。全国大会で100を超える? プロを目指すような子たちが集まる大会で? 何をやっているのだろう、わたしは。

何が何やらわからず、逃げるようにホテルに戻り、部屋でひとり泣き崩れた。悔しさのあまりに涙するのはいつものことだが、この日がいつもと違っていたのは、溺れるくらい長い間温泉に浸かった後も、それでもなお涙が溢れて止まらないことだった。

翌朝、気持ちを切り替えてゴルフ場に向かった。

競技は二日間に渡って行われる。初日でダントツ最下位になり、何の望みもないスコアでも二日目を戦わなくてはならないのである。昨日とは打って変わり、秋晴れの気持ちの良い天気になったのがせめてもの救いだった。

朝、ドライビングレンジで打ってみると、いつもの調子に戻っていた。トップもしないし、ゴロもない。これなら今日は自分のゴルフが出来る。戦える。大丈夫だ。

しかし、いざコースに出てみるとやはり前日と同じように球が上がらずゴロ、右にすっ飛んでいく、左にひっかけるなど、トラブルの連続。そしてまた毎ホールのようにバンカーから打つハメに陥った。二日目はさらにスコアが悪くなり、両日合わせての結果はダントツの最下位、見るも無惨な結果に終わった。

驚くことに、一粒の涙も出なかった。じんわりともしなかった。想像もしていないような悲惨な事態に遭遇すると、もはや涙さえも出てこないらしい。

何ひとつ良いことがなかった。いや、良いことというよりも、いつもの自分のゴルフを何ひとつさせてもらえなかった。全国大会まで来て、これほど悔しいことがあるだろうか。

涙さえ出ず、ただ呆然としながら問いかけた。ゴルフの神様がいるとして、いったい神様はわたしに何をさせたかったのだろうか、と。わたしにとってはかなりハードだった地区予選も関東決勝大会も上々の出来で通過した。天にも昇るような嬉しさだった。
しかし、通過させておいて全国大会ではまるで自分のゴルフをさせず、近年まれなワーストスコアで最下位に突き落とす。天国と地獄を見せる。

その意味は何なのか。わたしに何を期待しているのか。もしかしたら、競技をやめさせたいのか。そこに道はないというサインなのか。あるいは、そもそも神の意志など皆無で、ただ偶然に予選を通過し、ただ偶然にワーストを叩いて最下位になった。それぞれの出来事に、意味などないのかもしれない。

今まで泣いたどんな試合より、今回はきつかった。大会のレベルが上がるほど、待ち構えている困難はきびしく、悔しさも辛さも倍増するようだ。

悔しくて辛くて泣き崩れた片山津。それでもわたしはしみじみと幸せを感じている。大会に出るためだけに北陸まで飛行機に乗り、ちょっぴり贅沢な温泉ホテルに泊まり、二日間に渡って試合に出る。そんなことが叶う人生はとても幸せだ。感謝している。こんなわたしを応援してくれる友人たちに、快く送り出してくれた夫に、どこかで見てる神様に。


ゴーゴー以知子
埼玉在住。家から30分圏内にゴルフ場が15ヵ所ぐらいあります。もっぱら近場の地元ゴルファーですがお誘いがあれば遠方にも出かけて行きます。ウッド系はTaylorMade R9、アイアンはYAMAHA inpresX Z cavity。2011年10月に行われた日本オープン選手権のプロアマ大会に出場。以来、一緒にラウンドしたJ・チョイさんの大ファンです。自身が主催する「いちこ杯」も3年目を迎え、ゴルフ友だちとの大切な触れあいの場となっています。

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